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□事例:投資家を理解させる説明の在り方

A社では、気候変動やグローバルサプライチェーンの寸断といった不確実性が高まる経営環境の変化に対応するために、数年前から多角化経営に着手していました。

そのようななかで新型コロナウイルスの感染拡大が発生し、経済危機が発生。同時に米中の対立構造の高まりも起こり、グローバル経済への先行き不透明感も広まってきました。A社が選択した多角化経営は一定の効果を得るものと、経営陣以下、社員の多くが期待しています。多角化経営の一環として社内で新規事業創出も始め、いくつかのイノベーションにつながる活動も端緒についたところです。A社では、不確実性の高まる時代に持続可能な企業価値向上を図ろう、という意図でこのような取り組みを行っています。

A社IR担当のBさんは、社内のこのような動きについて、株主総会をはじめとしてさまざまな機会に情報発信をしています。ところが、複数の投資家から以下のような意見が出てきました。

「不確実性が高まっている時代だからこそ、多角化ではなく『選択と集中』が必要なのではないか?」
「複数の事業を展開することが企業としての一つのビジネスモデルや強みに基づいているのであれば、それがどのような新たな価値を生み出すことになるのかを発信してくれなければ評価できない」
「新規事業創出を興味深く感じた場合でも、企業がその取り組みについて、いつ、どのような確度で、どのような市場に成長すると見込んでいるのかの説明が欲しい」

Bさんは投資家の意見を経営陣に進言したところ、「多角化経営により複数事業を持つ場合でも、本業とのシナジーがあるので採用している。『選択と集中』はむしろ不確実性の時代にそぐわない」「多角化経営の中で新規事業を行う場合には、事業の立ち上げ、収益化に時間がかかるのは当然だ。短期的な収益性だけで判断してもらっては困る」「イノベーションを生み出すための多数の活動の中には、成功する確度が高く、市場規模・収益性についても説明しやすい近接領域の新規事業もあれば、成功する確度が低く、市場規模・収益性についても説明しづらい本業から遠い新規事業の取組もある。しかし、とりわけ環境変化の不確実性が大きい現在においては、後者の取組も必要である」といった反論があがりました。

「投資家に対してきっちり説明して理解を得るように」との命を受けたBさんは、そのように説明すべきか頭を悩ませています。