2017/10/24
防災・危機管理ニュース

立命館大学歴史都市防災研究所准教授の金度源(キム・ドウォン)氏は10日、同大学東京キャンパスで京都市先斗町を事例にした災害に強い町づくりに関する調査研究を発表した。金氏は、「先斗町はもともとお茶屋が多かったが、戦後にお茶屋が料亭に変わり、『火を使わない町』から『火を使う町』になり火災の危険が増加した」とし、「火災防止のためになにより初期消火が重要」と訴えた。
同氏は立命館大学で学ぶ文化遺産防災学とは、従来の建築・土木計画や都市計画と、文化財保存学による重複領域。木造が主流である文化遺産の再生不能な「文化的な価値」を損なわず、災害安全性と活用可能性を高めることを目標としている。「そのためには、歴史都市や文化財を災害から守るための技術・計画の開発と、歴史から災害に役立つ技術を学び、現代に生かすことが必要」と話す。

重点密集市街地と呼ばれる木造密集市街地域(木密地域)は、全国で8000ヘクタール。そのうちの2000ヘクタールが東京・大阪に集中する。1995年の阪神・淡路大震災以降の国の調査により、そのなかでも埼玉県川越市や千葉県香取市佐原地域などの歴史的な建物が立ち並ぶ地域は重要伝統的建物保存地区に指定された。
木密地域の防災上の問題点としては、①燃えやすい②延焼しやすい③地震で建物が倒壊しやすい④消防車が侵入しにくい⑤避難路が確保しにくい――が挙げられる。2016年7月5日に先斗町で発生した火災では飲食店の2階部分220平方メートルのほか、隣接する飲食店70平方メートルが消失。ほか5棟に燃え移った。幸い犠牲者はいなかったが、幅2.7メートルの狭い道に野次馬が群がり、消火活動に困難をきたしたという。町ではその時の教訓を受け、「先斗町このまち守り隊」を先斗町まちづくり協議会を中心とし、地域住民や消防・警察らで発足。防災訓練を行うほか、地域の啓もう活動を活発化している。
先斗町では、消防能力改善案として初期消火能力の向上を重視。町を分析し、初期消火可能率が低い地域に対して、現状の平均消火器集荷個数を上回るように消火器を増設した。金氏らは初期消火成功条件として、「消火器15本が出火後2分以内に加点に集結」とし、改善前は54%(消火器集荷8.1本)を63%(同9.45本)まで改善させた。そのほかにも避難経路を整備するなどして避難完了時間を短縮させるシミュレーションなども行っている。
同氏は「今後、2方向避難が可能なお茶屋の建物構造の開発や人材育成を進め、先斗町を守り育てる文化を作っていきたい」としている。
(了)
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