目指すべき方向の道標たるインテグリティ
第6回:スポーツ・インテグリティという言葉・概念の力

山村 弘一
弁護士・公認不正検査士/東京弘和法律事務所。一般企業法務、債権回収、労働法務、スポーツ法務等を取り扱っている。また、内部公益通報の外部窓口も担っている。
2022/02/24
スポーツから学ぶガバナンス・コンプライアンス
山村 弘一
弁護士・公認不正検査士/東京弘和法律事務所。一般企業法務、債権回収、労働法務、スポーツ法務等を取り扱っている。また、内部公益通報の外部窓口も担っている。
これまでの連載で、スポーツは社会からの信頼・応援により支えられている存在であり、その信頼・応援の基盤にはスポーツ・インテグリティがあることをお伝えしてきました。そして連載第2回では、我が国のスポーツ庁はスポーツ・インテグリティをスポーツを推進する際の重要な概念・理念と位置づけた上で、種々の施策を実施していることもご紹介しました。
連載第6回となる今回は、我が国においてスポーツ・インテグリティがクローズアップされてきた背景・経緯と、その言葉・概念の力についてお伝えしたいと思います。
2014年、独立行政法人日本スポーツ振興センター(以下、JSC)において「スポーツ・インテグリティ・ユニット」なる部署が設置されたことが、スポーツ・インテグリティに関して、我が国のスポーツ界で先鞭をつけたエポックメイキングな出来事であったといってよいように思います。
このスポーツ・インテグリティ・ユニット設置の背景には、2011年に施行されたスポーツ基本法において「スポーツは、スポーツを行う者に対し、不当に差別的取扱いをせず、また、スポーツに関するあらゆる活動を公正かつ適切に実施することを旨として、ドーピングの防止の重要性に対する国民の認識を深めるなど、スポーツに対する国民の幅広い理解及び支援が得られるよう推進されなければならない」(2条8項)等と定められたことがある旨が指摘されています(友添秀則編著、「よくわかるスポーツ倫理学」、2017年・ミネルヴァ書房、130頁[釜崎太])。
スポーツ基本法の成立・施行を背景にしたJSCにおけるスポーツ・インテグリティ・ユニットの設置により、我が国のスポーツ行政にスポーツ・インテグリティという概念が導入・紹介されたということができますが、スポーツ界において同概念に強い注目が集まるのは、2018年まで待つことになります。
同年には、スポーツ・インテグリティを掲げた提言等が立て続けに出されることになりました。それらを順に並べますと「我が国のスポーツ・インテグリティの確保のために―スポーツ庁長官メッセージ」(6月15日、スポーツ庁長官)、「スポーツ・インテグリティの体制整備について緊急提言」(6月25日、スポーツ議員連盟スポーツ・インテグリティの体制整備の在り方の検討に関するプロジェクトチーム)、「スポーツ・インテグリティの確保に向けた対応方針」(12月17日、文部科学大臣)、「スポーツ・インテグリティの確保に向けたアクションプラン」(12月20日、スポーツ庁)といった具合になります。
スポーツ行政・スポーツ界において、スポーツ・インテグリティを巡ってこのような急激な動きがみられたのは、どのような背景・理由があったのでしょうか。
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