本音で語らなければ同じ事故がまた起きる
第15回:「KAZU Ⅰ(カズワン)」再発防止への違和感

多田 芳昭
一部上場企業でセキュリティー事業に従事、システム開発子会社代表、データ運用工場長職、セキュリティー管理本部長職、関連製造系調達部門長職を歴任し、2020年にLogINラボを設立しコンサル事業活動中。領域はDX、セキュリティー管理、個人情報管理、危機管理、バックオフィス運用管理、資材・設備調達改革、人材育成など広範囲。バイアスを排除した情報分析、戦略策定支援、人材開発支援が強み。
2022/05/06
再考・日本の危機管理-いま何が課題か
多田 芳昭
一部上場企業でセキュリティー事業に従事、システム開発子会社代表、データ運用工場長職、セキュリティー管理本部長職、関連製造系調達部門長職を歴任し、2020年にLogINラボを設立しコンサル事業活動中。領域はDX、セキュリティー管理、個人情報管理、危機管理、バックオフィス運用管理、資材・設備調達改革、人材育成など広範囲。バイアスを排除した情報分析、戦略策定支援、人材開発支援が強み。
悲惨な事故が起こった。知床観光船「KAZU Ⅰ(カズワン)」の事故である。知床観光船の社長会見で土下座を繰り返し謝罪する姿にも、杜撰な安全管理、意識の低さなど責任を追及する厳しい声が止まない。
事故自体が悲惨なものであり、救助・捜索もままならない厳しい海域である事実を考えると、二度と同じ事故が起きないように再発防止が必要だ。しかし連日の報道を見る限り、そのような観点が欠落する違和感を禁じ得ない。本来別のテーマで寄稿する予定だったが、リスク管理や安全管理の、再発防止観点で検証すべき内容と感じ、本事故を検討することにした。
今回のメディア報道およびメディアで発言するコメンテイター、芸能人などは、一様にヒステリックな感情論に終始している。犯人捜し、悪者を仕立て上げて、糾弾、感情的な総攻撃をしており、本質的な問題には意識が向いていない。
確かに被害関係者の心痛に寄り添う意味では、共感を得られるのだろうが、この空気感一色に染まっていては、国民総洗脳のプロパガンダ、現代の魔女裁判の様相を呈してしまい、再発防止に向かえない。
同社の運行上の杜撰な運営、設備の維持管理などの問題はすでに発覚している。だが、事はそう簡単ではない。
最大の問題を問うならば、寒冷海域における安全対策が特段定められておらず、温暖な海域と同様の安全基準であったようなのだ。
あるコメンテイターは「救命胴衣を着ていても助からなかったのはなぜ?」と、余りにも惚けた疑問を繰り返していたが、水温10℃以下で人間が意識を保っていられるのはわずか、5℃以下では15分程度が限界という。そして当たり前だが、救命胴衣に保温機能はない。従って寒冷海域の海に人間が投げ出されたら、生存はほぼ不可能なのだ。
この事実は、タイタニック号の海難事故で多くの人に知られることとなった。海に投げ出された人は助からず、「救命いかだ」に乗れた人は助かったのだ。この歴史的事実から学ぶべきは、寒冷海域を航行する船舶の安全対策は、万が一沈没しても生命をつなぐ「救命いかだ」のような水に浸水しない救命器具が必要不可欠だということではないのか。
辛坊治郎氏も同様の見解を発信している。自身が遭難事故にあった経験から、水温20℃以下の寒冷水域を走る観光船には「救命いかだ」や「防寒具」などの必要性を訴えている。もし今回、この実態に則した安全対策、救命器具が装備されていたら、確かった命もあったのではないだろうか。
再考・日本の危機管理-いま何が課題かの他の記事
おすすめ記事
入居ビルの耐震性から考える初動対策退避場所への移動を踏まえたマニュアル作成
押入れ産業は、「大地震時の初動マニュアル」を完成させた。リスクの把握からスタートし、現実的かつ実践的な災害対策を模索。ビルの耐震性を踏まえて2つの避難パターンを盛り込んだ。防災備蓄品を整備し、各種訓練を実施。社内説明会を繰り返し開催し、防災意識の向上に取り組むなど着実な進展をみせている。
2025/06/13
「保険」の枠を超え災害対応の高度化をけん引
東京海上グループが掲げる「防災・減災ソリューション」を担う事業会社。災害対応のあらゆるフェーズと原因に一気通貫の付加価値を提供するとし、サプライチェーンリスクの可視化など、すでに複数のサービス提供を開始しています。事業スタートの背景、アプローチの特徴や強み、目指すゴールイメージを聞きました。
2025/06/11
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/06/10
その瞬間、あなたは動けますか? 全社を挙げた防災プロジェクトが始動
遠州鉄道株式会社総務部防災担当課長の吉澤弘典は、全社的なAI活用の模索が進む中で、社員の防災意識をより実践的かつ自分ごととして考えさせるための手段として訓練用のAIプロンプトを考案した。その効果は如何に!
2025/06/10
緊迫のカシミール軍事衝突の背景と核リスク
4月22日にインド北部のカシミール地方で起こったテロ事件を受け、インドは5月7日にパキスタン領内にあるテロリストの施設を攻撃したと発表した。パキスタン軍は報復として、インド軍の複数の軍事施設などを攻撃。双方の軍事行動は拡大した。なぜ、インドとパキスタンは軍事衝突を起こしたのか。核兵器を保有する両国の衝突で懸念されたのは核リスクの高まりだ。両国に詳しい防衛省防衛研究所の主任研究官である栗田真広氏に聞いた。
2025/06/09
危険国で事業展開を可能にするリスク管理
世界各国で石油、化学、発電などのプラント建設を手がける東洋エンジニアリング(千葉市美浜区、細井栄治取締役社長)。グローバルに事業を展開する同社では、従業員の安全を最優先に考え、厳格な安全管理体制を整えている。2021年、過去に従業員を失った経験から設置した海外安全対策室を発展的に解消し、危機管理室を設立。ハード、ソフト対策の両面から従業員を守るため、日夜、注力している。
2025/06/06
福祉施設の使命を果たすためのBCPを地域ぐるみで展開災害に強い人づくりが社会を変える
栃木県の社会福祉法人パステルは、利用者約430人の安全確保と福祉避難所としての使命、そして災害後も途切れない雇用責任を果たすため、現在BCP改革を本格的に推進している。グループホームや障害者支援施設、障害児通所支援事業所、さらには桑畑・レストラン・工房・農園などといった多機能型事業所を抱え、地域ぐるみで「働く・暮らす・つながる」を支えてきた同法人にとって、BCPは“災害に強い人づくり”を軸にした次の挑戦となっている。
2025/06/06
リスク対策.PROライト会員用ダウンロードページ
リスク対策.PROライト会員はこちらのページから最新号をダウンロードできます。
2025/06/05
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方