専門家の発言を鵜吞みにしてよいのか
第16回:情報活用の方法論(1)

多田 芳昭
一部上場企業でセキュリティー事業に従事、システム開発子会社代表、データ運用工場長職、セキュリティー管理本部長職、関連製造系調達部門長職を歴任し、2020年にLogINラボを設立しコンサル事業活動中。領域はDX、セキュリティー管理、個人情報管理、危機管理、バックオフィス運用管理、資材・設備調達改革、人材育成など広範囲。バイアスを排除した情報分析、戦略策定支援、人材開発支援が強み。
2022/05/26
再考・日本の危機管理-いま何が課題か
多田 芳昭
一部上場企業でセキュリティー事業に従事、システム開発子会社代表、データ運用工場長職、セキュリティー管理本部長職、関連製造系調達部門長職を歴任し、2020年にLogINラボを設立しコンサル事業活動中。領域はDX、セキュリティー管理、個人情報管理、危機管理、バックオフィス運用管理、資材・設備調達改革、人材育成など広範囲。バイアスを排除した情報分析、戦略策定支援、人材開発支援が強み。
専門家と称する人たちが報道に解説を加えるようになって久しい。思い起こせば、湾岸戦争からだろうか。素人が理解しにくく、アナウンサーも伝えられない軍事情報を、専門家と称する人物が出演し、武器や作戦などを解説することから始まったように記憶している。
昨今では、ありとあらゆる事案に対して「専門家によりますと」と、もっともらしく解説する報道が主流となっている。では、ここでいう専門家の実態とはどのようなものだろう。その言説は普遍の真実として信用するに値するのだろうか。
単刀直入に結論からいうと、メディアに出演する専門家は、メディアが伝えたい情報を発信する役割を担っているに過ぎず、肩書で箔を付けているだけだ。従って、メディアの意向に沿わない意見を持つ専門家は呼ばれない。
基本原則からいうと、一つの事案に対してすべての専門家が同じ見解を持っているわけではない。普通に考えて、さまざまな学説や異論があって進歩があるのだから、同じ意見に統一されていることはあり得ないと分かるはずだ。つまり、ある専門家の発言、解説は一学説、一意見でしかなく、普遍の情報ではあり得ない。
自然科学分野ならば、ある程度の普遍情報は存在する。それでも、人類が知っている真理は大砂浜の中の砂一粒に過ぎないという例えのように、専門家の語る情報がすべて正しいと考えるのは奢りに等しい勘違いだろう。ノーベル医学・生理学賞受賞の本庶佑先生も「(科学誌の)ネイチャーやサイエンスに出ているものの9割は嘘で、10年経ったら残って1割」と語っている。自然科学分野の論文ですらその程度なのだ。
ましてや社会科学的領域においては、何が正しくて何が間違っているのか、正解のない世界であり、個々の思想信条の影響を受け、主義主張の異なる学説が存在するのは当然である。
しかし、メディア報道で発信される「専門家によりますと」による情報は、ほぼ整然と一つの方向に整った情報であると感じないだろうか。本来ならば多様な意見が発信され、意見が戦わされるはずなのだが。
それはコロナ禍における煽り報道で露骨になり、ネット言論空間の進展で広く世間に知れ渡ることになった。
報道において専門家の意見が一方向に偏る原因はいくつかあり得るだろう。専門家の中での派閥の論理で、主流派が他派の発信を妨げている力の論理が一つだ。だが、何といっても報道側が恣意的意向で論者を選ぶ、同様に事前打ち合わせで方向性を指示している、それらが主要因ではないだろうか。
そして最近では、専門家と称して単なるジャーナリストが見解を語るケースも増えている。それを専門家といってよいか、疑問に感じているのは筆者だけではないだろう。
再考・日本の危機管理-いま何が課題かの他の記事
おすすめ記事
入居ビルの耐震性から考える初動対策退避場所への移動を踏まえたマニュアル作成
押入れ産業は、「大地震時の初動マニュアル」を完成させた。リスクの把握からスタートし、現実的かつ実践的な災害対策を模索。ビルの耐震性を踏まえて2つの避難パターンを盛り込んだ。防災備蓄品を整備し、各種訓練を実施。社内説明会を繰り返し開催し、防災意識の向上に取り組むなど着実な進展をみせている。
2025/06/13
「保険」の枠を超え災害対応の高度化をけん引
東京海上グループが掲げる「防災・減災ソリューション」を担う事業会社。災害対応のあらゆるフェーズと原因に一気通貫の付加価値を提供するとし、サプライチェーンリスクの可視化など、すでに複数のサービス提供を開始しています。事業スタートの背景、アプローチの特徴や強み、目指すゴールイメージを聞きました。
2025/06/11
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/06/10
その瞬間、あなたは動けますか? 全社を挙げた防災プロジェクトが始動
遠州鉄道株式会社総務部防災担当課長の吉澤弘典は、全社的なAI活用の模索が進む中で、社員の防災意識をより実践的かつ自分ごととして考えさせるための手段として訓練用のAIプロンプトを考案した。その効果は如何に!
2025/06/10
緊迫のカシミール軍事衝突の背景と核リスク
4月22日にインド北部のカシミール地方で起こったテロ事件を受け、インドは5月7日にパキスタン領内にあるテロリストの施設を攻撃したと発表した。パキスタン軍は報復として、インド軍の複数の軍事施設などを攻撃。双方の軍事行動は拡大した。なぜ、インドとパキスタンは軍事衝突を起こしたのか。核兵器を保有する両国の衝突で懸念されたのは核リスクの高まりだ。両国に詳しい防衛省防衛研究所の主任研究官である栗田真広氏に聞いた。
2025/06/09
危険国で事業展開を可能にするリスク管理
世界各国で石油、化学、発電などのプラント建設を手がける東洋エンジニアリング(千葉市美浜区、細井栄治取締役社長)。グローバルに事業を展開する同社では、従業員の安全を最優先に考え、厳格な安全管理体制を整えている。2021年、過去に従業員を失った経験から設置した海外安全対策室を発展的に解消し、危機管理室を設立。ハード、ソフト対策の両面から従業員を守るため、日夜、注力している。
2025/06/06
福祉施設の使命を果たすためのBCPを地域ぐるみで展開災害に強い人づくりが社会を変える
栃木県の社会福祉法人パステルは、利用者約430人の安全確保と福祉避難所としての使命、そして災害後も途切れない雇用責任を果たすため、現在BCP改革を本格的に推進している。グループホームや障害者支援施設、障害児通所支援事業所、さらには桑畑・レストラン・工房・農園などといった多機能型事業所を抱え、地域ぐるみで「働く・暮らす・つながる」を支えてきた同法人にとって、BCPは“災害に強い人づくり”を軸にした次の挑戦となっている。
2025/06/06
リスク対策.PROライト会員用ダウンロードページ
リスク対策.PROライト会員はこちらのページから最新号をダウンロードできます。
2025/06/05
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方