企業にはもう内向きの論理は通用しない
第6回:ジャニーズ事務所はどう対応すればよかったのか

吉野 ヒロ子
1970年広島市生まれ。博士(社会情報学)。帝京大学文学部社会学科准教授・内外切抜通信社特別研究員。炎上・危機管理広報の専門家としてNHK「逆転人生」に出演し、企業や一般市民を対象とした講演やビジネス誌等への寄稿も行っている。著書『炎上する社会』(弘文堂・2021年)で第16回日本広報学会賞「教育・実践貢献賞」受賞。
2023/10/12
共感社会と企業リスク
吉野 ヒロ子
1970年広島市生まれ。博士(社会情報学)。帝京大学文学部社会学科准教授・内外切抜通信社特別研究員。炎上・危機管理広報の専門家としてNHK「逆転人生」に出演し、企業や一般市民を対象とした講演やビジネス誌等への寄稿も行っている。著書『炎上する社会』(弘文堂・2021年)で第16回日本広報学会賞「教育・実践貢献賞」受賞。
以前もこの連載でジャニー喜多川性加害問題と、ジャニーズ事務所の対応について書きました。その後、同事務所の9月7日の記者会見、続く10月2日の記者会見で大きな動きがありましたので、あらためてこの問題を振り返ってみたいと思います。
まずは経緯のおさらいをしましょう。
ジャニー喜多川の性加害疑惑については、1990年代の北公次による告発など、再々行われていました。疑惑を報じた週刊文春をジャニーズ事務所が名誉毀損で訴え、2004年に最高裁が性加害の事実認定をしたこともあったのですが、テレビや新聞などのマスメディアではなかなか報じられず、表立って取り沙汰されることがほとんどないまま年月が過ぎていきました。
9月7日の記者会見は、ジャニーズ事務所は性加害は認めたものの、「再発防止特別チーム」の勧告を跳ねつけた上、説明責任も果たしたとはいえないということでした。
そのため、このような対応は今の企業倫理からは許されないこととして、アサヒホールディングスの勝木敦志社長が朝日新聞の取材に対し「人権を損なってまで必要な売り上げは1円たりともありません」とコメント、同社タレントを起用した広告を停止するなど、大騒動になりました。
記者会見後10日ほどで、広告に起用している約226社のうち25%が停止を発表。中にはモスバーガーのように、当初は起用を続けるとしながら取り下げ、慌てて店頭のポスターのジャニーズタレントの顔の上に掲示物を貼り付けて、批判される企業も出ました。
広告主の強い反発に、ジャニーズ事務所は「向こう1年間、タレントとの契約料のうち、事務所の取り分は放棄する」と提案しますが、ジャニーズ事務所外しの流れは止まりませんでした。アフラックほか事務所抜きでタレント個人と契約したいと主張する企業も出ました。実際、10月頭にはP&GがCM出演タレントと個人契約を結んだと発表しています。
共感社会と企業リスクの他の記事
おすすめ記事
備蓄燃料のシェアリングサービスを本格化
飲料水や食料は備蓄が進み、災害時に比較的早く支援の手が入るようになりました。しかし電気はどうでしょうか。特に中堅・中小企業はコストや場所の制約から、非常用電源・燃料の備蓄が難しい状況にあります。防災・BCPトータル支援のレジリエンスラボは2025年度、非常用発電機の燃料を企業間で補い合う備蓄シェアリングサービスを本格化します。
2025/04/27
自社の危機管理の進捗管理表を公開
食品スーパーの西友では、危機管理の進捗を独自に制作したテンプレートで管理している。人事総務本部 リスク・コンプライアンス部リスクマネジメントダイレクターの村上邦彦氏らが中心となってつくったもので、現状の危機管理上の課題に対して、いつまでに誰が何をするのか、どこまで進んだのかが一目で確認できる。
2025/04/24
常識をくつがえす山火事世界各地で増える森林火災
2025年、日本各地で発生した大規模な山火事は、これまでの常識をくつがえした。山火事に詳しい日本大学の串田圭司教授は「かつてないほどの面積が燃え、被害が拡大した」と語る。なぜ、山火事は広がったのだろうか。
2025/04/23
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/22
帰宅困難者へ寄り添い安心を提供する
BCPを「非常時だけの取り組み」ととらえると、対策もコストも必要最小限になりがち。しかし「企業価値向上の取り組み」ととらえると、可能性は大きく広がります。西武鉄道は2025年度、災害直後に帰宅困難者・滞留者に駅のスペースを開放。立ち寄りサービスや一時待機場所を提供する「駅まちレジリエンス」プロジェクトを本格化します。
2025/04/21
大阪・関西万博 多難なスタート会場外のリスクにも注視
4月13日、大阪・関西万博が開幕した。約14万1000人が訪れた初日は、通信障害により入場チケットであるQRコード表示に手間取り、入場のために長蛇の列が続いた。インドなど5カ国のパビリオンは工事の遅れで未完成のまま。雨にも見舞われる、多難なスタートとなった。東京オリンピックに続くこの大規模イベントは、開催期間が半年間にもおよぶ。大阪・関西万博のリスクについて、テロ対策や危機管理が専門の板橋功氏に聞いた。
2025/04/15
BCMSで社会的供給責任を果たせる体制づくり能登半島地震を機に見直し図り新規訓練を導入
日本精工(東京都品川区、市井明俊代表執行役社長・CEO)は、2024年元日に発生した能登半島地震で、直接的な被害を受けたわけではない。しかし、増加した製品ニーズに応え、社会的供給責任を果たした。また、被害がなくとも明らかになった課題を直視し、対策を進めている。
2025/04/15
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方