「もしトラ」が映すサプライチェーンと人権のリスク
第64回:価値観の棚卸しの必要性(10)

多田 芳昭
一部上場企業でセキュリティー事業に従事、システム開発子会社代表、データ運用工場長職、セキュリティー管理本部長職、関連製造系調達部門長職を歴任し、2020年にLogINラボを設立しコンサル事業活動中。領域はDX、セキュリティー管理、個人情報管理、危機管理、バックオフィス運用管理、資材・設備調達改革、人材育成など広範囲。バイアスを排除した情報分析、戦略策定支援、人材開発支援が強み。
2024/05/30
再考・日本の危機管理-いま何が課題か
多田 芳昭
一部上場企業でセキュリティー事業に従事、システム開発子会社代表、データ運用工場長職、セキュリティー管理本部長職、関連製造系調達部門長職を歴任し、2020年にLogINラボを設立しコンサル事業活動中。領域はDX、セキュリティー管理、個人情報管理、危機管理、バックオフィス運用管理、資材・設備調達改革、人材育成など広範囲。バイアスを排除した情報分析、戦略策定支援、人材開発支援が強み。
今回は「もしトラ」の最後として、企業にとって最大の課題でもあるサプライチェーンへの影響に触れたい。
東日本大震災、その後のタイの洪水において、サプライチェーンの断絶は日本社会に大きな課題を投げかけた。サプライチェーン断絶のリスクを想定した二重調達、安定調達の必要性についてである。
しかし、その後のコロナ禍においても、医療用品やマスクなどが供給できない事態に陥り、半導体不足は自動車や各種電装部品などさまざまな製品に影響を及ぼした。何を反省し、どのような対策を打ってきたのかと疑わしくなる状況が続いている。
また、これだけ世界的に再生可能エネルギーを強化しようとする動きが高まりながら、太陽光パネルや風力発電設備などは中国を主とする海外依存性が高く、日本の産業が潤う構造になっていないだけでなく、社会インフラとして他国に生殺与奪権を握られるリスクが高い状態に向かっている。
こうなっている最大の原因をひとことでいえば、短期で極視的なコスト問題といえるだろう。考えてみれば当然だ。調達はQCDS(Quality・Cost・Delivery・Service)で評価し、最適なサプライヤーや製品を選定するのであり、なかでもコストは大きな判断基準になる。リスクを想定して別の調達先を準備するとなると、QCDSで劣る面が出る。さらに二重調達となると、1社で扱う量が減少してコストアップにつながる。
歴史的には、安い労働力を求めて開発途上国に生産工場を移転し、コスト優位性を築く活動を国家レベルで推し進めてきた。当時からカントリーリスクとして生産場所の政治的な不安定さなどが考慮されてきたものの、ODA(政府開発援助)などで支える環境下、推進ありきだったのだから、それを切り替えるとなるとコスト面の弊害や投資回収の問題が出るのは当然だろう。周辺取引関係にも影響が出る。
事業継続上のリスクを突き付けられながらも、現実解として言い訳をまとう甘えの構造が存在し、そのリスクが顕在化する可能性だけでコスト負荷を背負うことに躊躇しているのが実情ではないだろうか。その結果が、いまなお続くサプライチェーンの脆弱性だと考える。
しかし「もしトラ」によって、これまで築いてきたサプライチェーンを根底から再検討せざるを得ない事態に直面するだろう。いや、世界はもうすでにその事態に直面して動いている。日本はいまだのらりくらりと自己正当化の部分最適で乗り切ろうとしているが、その姿勢自体がリスクとなりえる時代なのだ。
再考・日本の危機管理-いま何が課題かの他の記事
おすすめ記事
備蓄燃料のシェアリングサービスを本格化
飲料水や食料は備蓄が進み、災害時に比較的早く支援の手が入るようになりました。しかし電気はどうでしょうか。特に中堅・中小企業はコストや場所の制約から、非常用電源・燃料の備蓄が難しい状況にあります。防災・BCPトータル支援のレジリエンスラボは2025年度、非常用発電機の燃料を企業間で補い合う備蓄シェアリングサービスを本格化します。
2025/04/27
自社の危機管理の進捗管理表を公開
食品スーパーの西友では、危機管理の進捗を独自に制作したテンプレートで管理している。人事総務本部 リスク・コンプライアンス部リスクマネジメントダイレクターの村上邦彦氏らが中心となってつくったもので、現状の危機管理上の課題に対して、いつまでに誰が何をするのか、どこまで進んだのかが一目で確認できる。
2025/04/24
常識をくつがえす山火事世界各地で増える森林火災
2025年、日本各地で発生した大規模な山火事は、これまでの常識をくつがえした。山火事に詳しい日本大学の串田圭司教授は「かつてないほどの面積が燃え、被害が拡大した」と語る。なぜ、山火事は広がったのだろうか。
2025/04/23
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/22
帰宅困難者へ寄り添い安心を提供する
BCPを「非常時だけの取り組み」ととらえると、対策もコストも必要最小限になりがち。しかし「企業価値向上の取り組み」ととらえると、可能性は大きく広がります。西武鉄道は2025年度、災害直後に帰宅困難者・滞留者に駅のスペースを開放。立ち寄りサービスや一時待機場所を提供する「駅まちレジリエンス」プロジェクトを本格化します。
2025/04/21
大阪・関西万博 多難なスタート会場外のリスクにも注視
4月13日、大阪・関西万博が開幕した。約14万1000人が訪れた初日は、通信障害により入場チケットであるQRコード表示に手間取り、入場のために長蛇の列が続いた。インドなど5カ国のパビリオンは工事の遅れで未完成のまま。雨にも見舞われる、多難なスタートとなった。東京オリンピックに続くこの大規模イベントは、開催期間が半年間にもおよぶ。大阪・関西万博のリスクについて、テロ対策や危機管理が専門の板橋功氏に聞いた。
2025/04/15
BCMSで社会的供給責任を果たせる体制づくり能登半島地震を機に見直し図り新規訓練を導入
日本精工(東京都品川区、市井明俊代表執行役社長・CEO)は、2024年元日に発生した能登半島地震で、直接的な被害を受けたわけではない。しかし、増加した製品ニーズに応え、社会的供給責任を果たした。また、被害がなくとも明らかになった課題を直視し、対策を進めている。
2025/04/15
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方