「もしトラ」は何を映しているのか。サプライチェーンと人権の問題から考える(イメージ:写真AC)

サプライチェーンへの影響

今回は「もしトラ」の最後として、企業にとって最大の課題でもあるサプライチェーンへの影響に触れたい。

東日本大震災、その後のタイの洪水において、サプライチェーンの断絶は日本社会に大きな課題を投げかけた。サプライチェーン断絶のリスクを想定した二重調達、安定調達の必要性についてである。

しかし、その後のコロナ禍においても、医療用品やマスクなどが供給できない事態に陥り、半導体不足は自動車や各種電装部品などさまざまな製品に影響を及ぼした。何を反省し、どのような対策を打ってきたのかと疑わしくなる状況が続いている。

また、これだけ世界的に再生可能エネルギーを強化しようとする動きが高まりながら、太陽光パネルや風力発電設備などは中国を主とする海外依存性が高く、日本の産業が潤う構造になっていないだけでなく、社会インフラとして他国に生殺与奪権を握られるリスクが高い状態に向かっている。

こうなっている最大の原因をひとことでいえば、短期で極視的なコスト問題といえるだろう。考えてみれば当然だ。調達はQCDS(Quality・Cost・Delivery・Service)で評価し、最適なサプライヤーや製品を選定するのであり、なかでもコストは大きな判断基準になる。リスクを想定して別の調達先を準備するとなると、QCDSで劣る面が出る。さらに二重調達となると、1社で扱う量が減少してコストアップにつながる。

調達においてはコストが最優先される(イメージ:写真AC)

歴史的には、安い労働力を求めて開発途上国に生産工場を移転し、コスト優位性を築く活動を国家レベルで推し進めてきた。当時からカントリーリスクとして生産場所の政治的な不安定さなどが考慮されてきたものの、ODA(政府開発援助)などで支える環境下、推進ありきだったのだから、それを切り替えるとなるとコスト面の弊害や投資回収の問題が出るのは当然だろう。周辺取引関係にも影響が出る。

事業継続上のリスクを突き付けられながらも、現実解として言い訳をまとう甘えの構造が存在し、そのリスクが顕在化する可能性だけでコスト負荷を背負うことに躊躇しているのが実情ではないだろうか。その結果が、いまなお続くサプライチェーンの脆弱性だと考える。

しかし「もしトラ」によって、これまで築いてきたサプライチェーンを根底から再検討せざるを得ない事態に直面するだろう。いや、世界はもうすでにその事態に直面して動いている。日本はいまだのらりくらりと自己正当化の部分最適で乗り切ろうとしているが、その姿勢自体がリスクとなりえる時代なのだ。