□解説:発生の負の影響を最小化する

この事例は、2000年に実際に発生した日本企業としては数少ない「称賛される危機対応」の例です。

企業への脅迫やテロ、システムへのハッキングなど、犯罪者が意図的に企業を攻撃する場合には、その発生確率の低減にはおのずと限度があります。そのため、組織外部に要因があるリスクに対しては、発生時の対応をあらかじめ準備し、速やかに対応することにより、発生する負の影響を最小化することが重要なポイントです。

この事例を通じて学ぶべき対応として、以下のようなものが挙げられるでしょう。
① トップのリーダーシップ
「患者さんと患者さんを愛する家族の視点で考える」という会社の基本方針を忘れることなく、同時に「不当な要求には応じない」という強い決意がトップのさまざまな決断を後押ししたこと。

② 発生時の危機感
この事件の数年前に起きた菓子製造会社に対しての企業脅迫事件を教訓として、菓子と医薬品という違いはあれど、どちらも消費者が直接購入する商品であり、脅迫内容が実行されてしまったら多くの消費者が犠牲になるという危機感を持ったこと。

③ 対応の迅速さ
「脅迫状が届いた際の現場→トップへ情報が伝わるエスカレーションルートとそのスピード」「脅迫状が届いてから警察に通報するまでのスピード」「リコール決断までのスピード」「事件発生から商品回収までのスピード」「新パッケージの開発と製造までのスピード」いずれをとっても迅速に対応できていること。

④ 情報公開の姿勢
新聞への告知やHP上での情報開示など、企業にとっては多額のコストになりかねないものであっても消費者重視の観点からちゅうちょなく行われたこと(これ以外にも、国内の主要金融機関やシンクタンクのアナリストに電子メールで、回収個数や損害額、販売再開までの見通しなど、可能な限りの情報提供も実施していました)。