傍観者にさせない

残念ながら「CHIKAN」は世界で通じる日本語です。そして、実際に被害届を出すのは1割に過ぎないといわれています。泣き寝入りが9割なのです。

このアプリを開発したRadarLab株式会社のチーフプロダクトオフィサー片山玲文さんが、大学生に聞いた話が印象的でした。痴漢の被害に遭ってもなぜ泣き寝入りしているか聞いたところ、「学校に遅刻するから」という答えがあったそうです。どんなに不快な思いをしても、遅刻しないことを優先せざるを得ない現状に、「黙っていたら問題は改善しない」「次の世代にこのような問題を残してはいけない」「痴漢っていうのが昔はあったらしいよと言える、そんな世界を作りたい」との思いから、このアプリは開発されました。

お話を聞いていて、共感しまくりの取材でした。

さらに、このアプリがすごいなと私が思うのは、被害に遭った人だけが報告するシステムではないことです。「被害を見た」人がポチッと報告できる項目があります。周りにいる男性を含めて全ての人が、痴漢を許さないという行動を気軽に示せるのです。

また、被害を「レポート」すると偽電話がかかってきます。車内で電話をしている様子は目立つので加害者が去っていくなど空気を変えることができるかもしれません。さらに被害のレポートと同時に30メートル至近の(概ね一車両くらい)アプリを導入している人に、近距離通信の技術を使って、通知が発せられます。通知を受けた人は、あたりをキョロキョロ見回したりしますよね。それによって見守り効果もありま す。 偽電話を受信してる人に「気分が悪いですか?」と声をかけたり、少し大きな音で咳払いするなどそれぞれの方法で、被害者を救うための行動がとれると良いですね。

これこそが、内閣府の「性犯罪・性暴力対策の強化の方針」がいう「性暴力はあってはならないものであり、悪いのは加害者であるという社会の意識の醸成」に役立ち、「傍観者にさせない取り組み」となるツールだと思うのです。

東日本大震災では

●避難所で夜になると男の人が毛布に入ってくる。周りの女性も「若いからしかたないね」と見て見ぬふりをして助けてくれない (20代女性)

という被害事例がありました。傍観者が加害者の加害を助長しています。傍観者にさせない、ならない取り組みは、いますぐ多くの人が実行すべき性暴力対策ではないかと思います。

写真を拡大 内閣府 男女共同参画局 性犯罪・性暴力対策の強化の方針(令和2年6月11日決定)概要より引用。加害者・被害者にさせないというだけでなく、傍観者にさせないための取り組みについても記載されている http://www.gender.go.jp/policy/no_violence/seibouryoku/pdf/policy_03.pdf

このアプリは電車内だけで使うものではありません。私は避難所(避難場所)でこそ使ってほしいと思うのです。

最新の内閣府男女共同参画局「災害対応力を強化する女性の視点 男女共同参画視点からの防災・復興ガイドライン」の避難所チェックリストにも「暴力を許さない環境整備がなされている」という項目に、啓発ポスターの提示というものがあります。

避難所(避難場所)にぜひ、大きく「痴漢・性暴力対策アプリ導入中」ということと、「通報があれば、アプリを入れているすべての人に注意メッセージが発信されます」と事前に掲示しておいてほしいと思います。そして、避難してきた人にはアプリの活用を促していただければと思います。(注 今後、避難所(避難場所)でのWi-Fi環境の維持は重要になってくると思います)

避難所(避難場所)でこのアプリが使われていると、誰でも通報でき、傍観者とならない雰囲気になりますので、性暴力が起こりにくくなる効果を期待します。万が一、被害があっても、被害ランキングに上がってきて可視化されます。そうすると、警察などの巡回にもつながりやすくなります。

ということで、Twitterのコメントに「子どもがいたら避難所(避難場所)に行かない方がいい」というのがあった件ですが、避難所(避難場所)に行かなくて済む安全な場所にいるのであれば、もちろんそうしてください。

でも、どんなに自宅や職場を安全にしても、地震の後に地域で火災が起こった場合など、安全な場所に避難せざるを得ない場面も出てきます。避難所(避難場所)で性暴力が起こらない取り組みをすることは必ず必要なことなのです。

現在、新型コロナウイルス感染症対策と避難所ということに注目が集まっていますが、同時に、内閣府が出した性暴力対策や防災・復興ガイドライン、そして実効性の高いアプリを活用して性暴力のない避難所対策も検討していただければと思っています。

痴漢? 避難所の性暴力? なにそれ。昔そんなひどいことがあったの? そう言える社会を目指したいです。避難所で起こった事例は、残念ながら日常でも起こっていることの延長です。2次被害が起こらない、そして実効性のある性暴力対策にみなさまと日常から取り組んでいきたいです。