2014/01/25
誌面情報 vol41
新型インフルエンザ等対策特別措置法の流れ
□発生段階ごとの対策の目的と内容
新型インフルエンザの対策は、発生段階ごとに対策の目的や実施内容が異なる点に特徴がある。
海外で新型インフルエンザが発生し、国内で患者が発生していない「海外発生期」には、国内への侵入を遅延させる効果を狙って水際対策(検疫強化)が実施され、発生国からの帰国者のうち、新型インフルエンザ等の患者や患者の疑いがある者等について、停留や隔離等の措置が講じられる。
しかし、国内で患者が発生した場合、発生初期の目的は、感染拡大のスピードを遅延させ、感染のピーク時の患者数を抑制することとなる。感染のピークを抑えることで、患者が適切に治療を受けることができれば、日本の医療水準であれば、重症者や死亡者を一定程度抑えることが可能であると考えられるためだ。
仮に発生した新型インフルエンザ等の病原性が強いものであった場合、国内発生早期の段階で「緊急事態宣言」が発出され、いわゆる社会的な隔離(SocialDistance)と呼ばれる学校休業や外出自粛の他、施設使用制限などの緊急事態措置が講じられる。措置の期間は1∼2週間が目安とされている。仮に弱いレベルのものであった場合、個人の咳エチケットやマスク着用などの公衆衛生対策が要請されることとなる。
新型インフルエンザ等が拡大し、患者が増加した場合は、被害を軽減するために適切な医療措置が講じられる。

□総理大臣がトップの政府対策本部が発出する「基本的対処方針」
世界の一部で新型インフルエンザ等が発生し「海外発生期」となった場合、病原性の程度によらず、内閣総理大臣をトップとする政府対策本部が設置される。同時に、都道府県でも知事をトップとする都道府県対策本部を設置することが義務付けられる。
政府対策本部は、専門家の意見を踏まえつつ「基本的対処方針」を公示する。基本的対処方針では「水際対策の方針、外出自粛・イベント自粛等の方針、医療体制の整備要請、ワクチンの接種方針等」の方針を提示されることが想定される。
国からの要請に伴い、都道府県等は、患者の受け入れ態勢・相談体制を整えることになる。具体的には、あらかじめ指定された医療機関に帰国者・接触者外来を設置し、保健所等には「帰国者・接触者相談センター(旧・発熱相談センター)」を立ち上げる。同センターでは、発生国に渡航歴があり、かつ発熱等の症状がある者を対象とする。すべての発熱者からの相談が殺到し混乱した2009年の反省を踏まえ、名称を発熱相談センターから帰国者・接触者相談センターに改めたものである。
事態が進展し、新型インフルエンザが国内に侵入すると、病原性も徐々に明らかになってくる。その際、発生した新型インフルエンザ等の病原性が強い場合は、政府対策本部によって「緊急事態宣言」がなされ、外出自粛や学校休業等の施設使用制限の要請・指示、住民への予防接種などが「基本的対処方針」に基づいて実施される。
「基本的対処方針」は基本的には2009年の新型インフルエンザ(A/H1N1)で発信された項目等が想定される。2009年の「基本的対処方針」は法的裏付けがなかったものだが、特措法によって、法的根拠が明確化されたものである。
ちなみに、国内発生の初期段階では、保健所等の「帰国者・接触者相談センター」に速やかに連絡し、診断可能な病院(帰国者・接触者外来)について指示を受けることになる。しかし、地域で一定数の患者が発生した場合は、一部の指定された医療機関のみでは十分な医療体制を確保することが難しいため、原則的にすべての医療機関で新型インフルエンザ等の患者を診療することが想定されている。このため、特措法においても、医療関係者に対する「医療の実施の要請」とともに、「損失補償及び損害補償」の仕組みが設けられている。
誌面情報 vol41の他の記事
おすすめ記事
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2023/01/31
-
リスク対策.com編集長が斬る!【2023年1月31日配信アーカイブ】
【1月31日配信で取り上げた話題】家庭での防災行動を高めるために
2023/01/31
-
-
1000人に聞いた防災の取り組みと行政への期待
リスク対策.comは、地域住民がどの程度防災に取り組んでいるのか、また防災の観点から行政に対してどのような要望を持っているのかなどを把握する目的でインターネットによるアンケート調査を実施した。その結果、2021年5月から避難勧告が廃止され避難指示に一本化されたことについては約5割しか理解していないことや、平時から国や地方自治体の防災のホームページなどがあまり活用されていない実態が明らかになった。調査は、2022年11月21日から22日にかけてインターネット上で行い、全国の20歳以上の成人男女1000人からの回答を得た。質問は、回答の質を高めるため「この質問は一番右の回答をお選びください」という条件項目を入れ、適切な回答をしなかったものを除き、計889人を有効回答として分析した。
2023/01/30
-
社内滞在時をイメージさせる実践的な訓練と備蓄
テクニカルセラミックスを開発・生産するクアーズテックは2012年、東京都の帰宅困難者対策条例を機に一斉帰宅抑制対策に乗り出しました。独自のプログラムを追加した実効性の高い訓練や被災時の心理にも配慮したきめ細かな備蓄が評価され、2021年には東京都のモデル企業に。同社の取り組みを紹介します。
2023/01/29
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!【2023年1月24日配信アーカイブ】
【1月24日配信で取り上げた話題】最強寒波への備え
2023/01/24
-
リスク対策.com編集長が斬る!【2023年1月17日配信アーカイブ】
【1月17日配信で取り上げた話題】防災心理を学ぶゼミ生が制作した企業の防災マニュアル/コロナ発生から3年 企業の初動対応を振り返る
2023/01/24
-
BCPと助け合える関係が機能した災害復旧活動
2019年の台風19号でグループ含め3工場が壊滅的被害を受けたカイシン工業は、経営トップが「全力復旧」の方針を発表すると各工場が即座に活動を開始。取引先や協力会社の支援を受けて設備の交換を迷いなく進めるとともに、代替生産によって早期に出荷を再開しました。同社のBCPと助け合える関係づくりを紹介します。
2023/01/19
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方