問われる行政のサポート力

これまでも、住民が主体的に防災活動を行う仕組みとして自主防災組織がありました。あえて地区防災計画にしたことで、何がどう変化するのでしょう。

室﨑:一番重要なことは、今まで自主防災組織で防災計画を作りなさい、あるいは要援護者の避難ガイドラインを作りなさいと言ってきたけど、結果的には行政主導のトップダウン型の枠組みの中に入れ込もうとしてきた感が否めません。もっと水平の立場で、ボトムアップとトップダウンの2つのベクトルが等しく働くことによって初めて安全が確保できると思うのです。

地区防災計画を作るのは住民にとっては責任であり権利でもあります。自分たちの家は自分たちで守らなくてはいけない。一方で、行政はそれをいかにサポートできるかを考えなくてはいけない。今後、いろんな形で個性ある計画が各地から出されてきた時に、それが本当に実現でき、地域の防災につながる計画になるように、行政がアドバイスしたり、サポートすることが求められます。必ずしもお金のサポートという意味ではなくて、学校で先生が生徒を育てるように、多様なサポートの方法があります。もちろん、既存の自主防災組織の中にも、しっかりコミュニティでの防災活動が機能しているところはありますが、これまでは自主防災組織の善意だけに期待し、彼らの取り組みを制度的にきちっと担保、応援する仕組みがなかったのです。その意味でも、行政がそれぞれのコミュニティの思いにどう応えていくかは非常に大きな課題です。

個人的な意見としては、行政職員だけでなく、防災士、消防団員、学校の先生など専門的な情報や知恵を持つ方々を登録しておき、各地域にアドバイザー派遣のような形で支援に入っていただき一緒に議論してもらえるような形ができればいいと期待しています。

まずは多様なモデルを生み出すこと

地区防災計画制度について、どれだけの効力が期待できるのでしょうか?

西澤:まず、災害対策基本法の中に制度として組み込まれたことは大きな意味があると思います。これまでの自主防災組織は、年月が経つとどうしても活動が縮小し、取り組む人も限られてきましたが、地区防災計画が制度化されたことによって、再び防災活動への意識が高まり、他の人を誘いやすくなる点などが期待されます。また、実際に計画作りを進めている人からは、「行政との話し合いがしやすくなった」「サポートが得られやすくなった」などの報告もいただいており、本制度の目的である住民の自発的な取り組みを促進する面では効果が出ていると思います。

地区防災計画制度は、「計画提案制度」と言って、住民が市町村に対して自分たちで計画の案を作って提案をできることが最大の特徴です。似たようなものには、バリアフリー法、景観法などがありますが、防災分野での計画提案制度というのは画期的な試みだと自負しています。行政には、提案に対する応諾義務があります。必要なら計画を採用し、必要がないならその理由を説明しなくてはいけません。まさに、住民が考え、それを行政がサポートすることを制度として規定しているのです。

平時から、こうした住民の話し合いが行われれば、仮に被災しても、復興の過程で合意形成などがしやすくなることも期待できます。

室﨑:その通りだと思います。突然、自分たちで復興計画を作れと言ってもそれは無理です。自分たちのことは自分たちで決める。その際できるだけいろいろな方の意見を聞くというプロセスを身に付けていくことが求められます。まちづくり活動と同じですが、防災は、人の命を守ることが何より大切なので、目標一致がしやすいという意味で取り掛かりやすいテーマだと思います。

西澤:冒頭申し上げましたように、私はもともとボランティア政策にも携ってきたのですが、ボランティアと言っても、遠方から来られる活動もあるし、地域コミュニティとしての活動もある。私はむしろ、地域コミュニティベースの共助のボランティア活動を促進していく上で、地区防災計画制度のようなものがあればと考えていました。住民だけでなく、事業者の地域との関わり方や、(事業継続計画)BCPとの関係についても今後は考えていく必要があります。

室﨑:事業者の方もさまざまな専門的な知識を持っていますから、地域でそうした事業者や人材を発掘し、うまく力を合わせていけばいいでしょう。それこそがボトムアップ型の取り組みです。地区防災計画は地産地消です。皆で自分たちの頭で考え、皆で作っていくのが本質です。