■メンバーは中間管理職以上

人手不足が叫ばれる昨今、とくに中小企業では日常の業務以外に非常時の役割を付与するなどというのは、抵抗あることかもしれない。しかし万一災害が起これば、否応なく何らかの役割分担を行い、手分けして対応に当たらなければならないのである。その意味で、平時に緊急対策本部メンバーを指名しておくことは、たとえBCPという枠組みを前提としなくても必要なことである。

人選はどのような基準で決めればよいだろうか。リーマンショックのような金融危機であれ、たびたび起こる大地震であれ、事業を混乱・中断させる事態ともなれば、だれが指揮してどんなメンバーで全社を動かすかはだいたい決まっている。社長やCEOを頂点とする中間管理層以上のメンバーである。緊急対策本部長=社長、副本部長=専務または総務部長…などなど。一般従業員は含まれない。

しかし現実的には、メンバーに指名された中間管理職の人々の顔に戸惑いや浮かぬ顔もみられる。これまで経験したことのない活動の責任者を任されることで、いざというとき判断や対応が後手に回り、責任を問われたり周囲に迷惑がかかるのではないかという不安である。しかしこの心情は誰しも同じだろう(社長でさえも)。

こうした未知への不安を取り除くには、訓練や演習を通じて一通りやるべきことをなぞってみるのが一番である。その不安が解消されれば、あとは安心して任務を任せられる、あるいはお互いに心置きなく協力し合えるベターな関係作りに配慮するだけである。

■対策本部機能の2つのアプローチ

緊急対策本部のメンバーはどのような役割を担うのだろうか。これは2つの考え方ができる。一つは人員に余裕のない中小企業では、現行の各部門長(部長や代理としての課長)がそのままBCPに自分の担当業務責任者として名を連ねるものである。下記の例に示すように、それぞれ業務ごとに専任されたプロフェッショナルなメンバーだから、役割の付与という意味では最も自然な形で受け入れられるだろう。

(1)従来の業務部門単位による役割の付与
・社長…危機対策本部長(全体の総指揮、重要な意思決定、指揮命令)
・総務部長…部門間調整、経理、従業員の管理、物資調達管理
・生産部長…製造業などの場合は生産ラインの継続と復旧の責任者
・営業部長…顧客・取引先対応の責任者
・情報システム部長…ITと通信の復旧責任者
・その他…

(2)ICS(インシデント・コマンド・システム)による役割の付与
一方、災害対応に特化した役割や機能を全面に出す考え方もある。ICSもその一つである。ICSとは災害時の命令系統や管理手法を標準化したシステムで、5つの基本機能として指揮 (Command)、実行 (Operations)、計画情報 (Planning)、後方支援 (Logistics)、財務・総務 (Finance/Administration) から成る。このように書くと何となく高度で特殊なイメージを抱くが、しかし筆者は、2003年に神戸市の「人と防災未来センター」の資料室でほぼICSと同じ機能を持つ中堅企業の地震対策計画のサンプルを閲覧したのを覚えている。また、筆者が以前講義を受けたことのある危機管理コンサルタント、レジーナ・フェルプス(Regina Phelps)氏の話では、ICSはスケーラブルなので企業規模の大小を問わず適用可能とのことだった。最近は国内でもICSを積極的に取り入れている企業や市民団体があるという。