2019/10/10
昆正和のBCP研究室
■メンバーは中間管理職以上
人手不足が叫ばれる昨今、とくに中小企業では日常の業務以外に非常時の役割を付与するなどというのは、抵抗あることかもしれない。しかし万一災害が起これば、否応なく何らかの役割分担を行い、手分けして対応に当たらなければならないのである。その意味で、平時に緊急対策本部メンバーを指名しておくことは、たとえBCPという枠組みを前提としなくても必要なことである。
人選はどのような基準で決めればよいだろうか。リーマンショックのような金融危機であれ、たびたび起こる大地震であれ、事業を混乱・中断させる事態ともなれば、だれが指揮してどんなメンバーで全社を動かすかはだいたい決まっている。社長やCEOを頂点とする中間管理層以上のメンバーである。緊急対策本部長=社長、副本部長=専務または総務部長…などなど。一般従業員は含まれない。
しかし現実的には、メンバーに指名された中間管理職の人々の顔に戸惑いや浮かぬ顔もみられる。これまで経験したことのない活動の責任者を任されることで、いざというとき判断や対応が後手に回り、責任を問われたり周囲に迷惑がかかるのではないかという不安である。しかしこの心情は誰しも同じだろう(社長でさえも)。
こうした未知への不安を取り除くには、訓練や演習を通じて一通りやるべきことをなぞってみるのが一番である。その不安が解消されれば、あとは安心して任務を任せられる、あるいはお互いに心置きなく協力し合えるベターな関係作りに配慮するだけである。
■対策本部機能の2つのアプローチ
緊急対策本部のメンバーはどのような役割を担うのだろうか。これは2つの考え方ができる。一つは人員に余裕のない中小企業では、現行の各部門長(部長や代理としての課長)がそのままBCPに自分の担当業務責任者として名を連ねるものである。下記の例に示すように、それぞれ業務ごとに専任されたプロフェッショナルなメンバーだから、役割の付与という意味では最も自然な形で受け入れられるだろう。
(1)従来の業務部門単位による役割の付与
・社長…危機対策本部長(全体の総指揮、重要な意思決定、指揮命令)
・総務部長…部門間調整、経理、従業員の管理、物資調達管理
・生産部長…製造業などの場合は生産ラインの継続と復旧の責任者
・営業部長…顧客・取引先対応の責任者
・情報システム部長…ITと通信の復旧責任者
・その他…
(2)ICS(インシデント・コマンド・システム)による役割の付与
一方、災害対応に特化した役割や機能を全面に出す考え方もある。ICSもその一つである。ICSとは災害時の命令系統や管理手法を標準化したシステムで、5つの基本機能として指揮 (Command)、実行 (Operations)、計画情報 (Planning)、後方支援 (Logistics)、財務・総務 (Finance/Administration) から成る。このように書くと何となく高度で特殊なイメージを抱くが、しかし筆者は、2003年に神戸市の「人と防災未来センター」の資料室でほぼICSと同じ機能を持つ中堅企業の地震対策計画のサンプルを閲覧したのを覚えている。また、筆者が以前講義を受けたことのある危機管理コンサルタント、レジーナ・フェルプス(Regina Phelps)氏の話では、ICSはスケーラブルなので企業規模の大小を問わず適用可能とのことだった。最近は国内でもICSを積極的に取り入れている企業や市民団体があるという。
昆正和のBCP研究室の他の記事
おすすめ記事
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!【2024年4月16日配信アーカイブ】
【4月16日配信で取り上げた話題】今週の注目ニュースざっとタイトル振り返り/特集:熊本地震におけるBCP
2024/04/16
-
調達先の分散化で製造停止を回避
2018年の西日本豪雨で甚大な被害を受けた岡山県倉敷市真備町。オフィス家具を製造するホリグチは真備町内でも高台に立地するため、工場と事務所は無事だった。しかし通信と物流がストップ。事業を続けるため工夫を重ねた。その後、被災経験から保険を見直し、調達先も分散化。おかげで2023年5月には調達先で事故が起き仕入れがストップするも、代替先からの仕入れで解決した。
2024/04/16
-
工場が吹き飛ぶ爆発被害からの再起動
2018年の西日本豪雨で隣接するアルミ工場が爆発し、施設の一部が吹き飛ぶなど壊滅的な被害を受けた川上鉄工所。新たな設備の調達に苦労するも、8カ月後に工場の再稼働を果たす。その後、BCPの策定に取り組んだ。事業継続で最大の障害は金属の加温設備。浸水したら工場はストップする。同社は対策に動き出している。
2024/04/15
-
動きやすい対策本部のディテールを随所に
1971年にから、、50年以上にわたり首都圏の流通を支えてきた東京流通センター。物流の要としての機能だけではなく、オフィスビルやイベントホールも備える。2017年、2023年には免震装置を導入した最新の物流ビルを竣工。同社は防災対策だけではなく、BCMにも力を入れている。
2024/04/12
-
民間企業の強みを発揮し3日でアプリ開発
1月7日、SAPジャパンに能登半島地震の災害支援の依頼が届いた。石川県庁が避難所の状況を把握するため、最前線で活動していた自衛隊やDMAT(災害派遣医療チーム)の持つ避難所データを統合する依頼だった。状況が切迫するなか、同社は3日でアプリケーションを開発した。
2024/04/11
-
-
組織ごとにバラバラなフォーマットを統一
1月3日、サイボウズの災害支援チームリーダーである柴田哲史氏のもとに、内閣府特命担当の自見英子大臣から連絡が入った。能登半島地震で被害を受けた石川県庁へのIT支援要請だった。同社は自衛隊が集めた孤立集落や避難所の情報を集約・整理し、効率的な物資輸送をサポートするシステムを提供。避難者を支援する介護支援者の管理にも力を貸した。
2024/04/10
-
リスク対策.com編集長が斬る!【2024年4月9日配信アーカイブ】
【4月9日配信で取り上げた話題】今週の注目ニュースざっとタイトル振り返り/特集:安全配慮義務
2024/04/09
-
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方