2020/03/05
昆正和のBCP研究室
■帰宅や移動を余儀なくされた場合
それでもなお、思いもよらない理由で帰宅や移動を余儀なくされることも十分考えられる。災害対応の基本は自助(自分の命は自分で守る)であることを考えると、まずは社員一人ひとりがバックに常備しておきたいアイテムがある。詳細は「第20回:『避難』をめぐるBCP的考察(その2)」の「(2)外出や出張の多い社員が用意しておきたい品目」を参考にしてほしい。
次に重要なことは「どう行動するか?」である。以下、いくつかポイントを述べる。
(1)なるべくグループで行動する
できる限り同じ方面へ向かう社員同士でグループをつくって帰宅・移動する。ただし、多くの社員が一斉に同じ行動をすると大渋滞になるため、例えばAグループは夕方5時、Bグループは6時というように、時間を分散することも考える。

グループでの行動は、精神的な支えになると同時に、防犯や体調不良の社員が出た場合の対応の面でも有利である。単独で帰宅せざるを得ない社員は、同じ方面へ向けて歩く人がいたら、男性は男性同士、女性は女性同士で声を掛け合うなど、なるべくいっしょに行動するようにする。途中で避難施設などを見かけたら、無理をせず夜が明けるまでそこで待機するなど、状況に応じて賢明な判断・行動が求められる。
(2)帰宅支援マップの有効性と問題点
帰宅支援マップにしても防災地図アプリにしても、記載情報の活用について過度にあてにすることは禁物である。例えばコンビニエンスストアなどは「帰宅支援ステーション」という位置づけになっていて、水やトイレを提供するものとされている。公園のマークがあれば、水を飲んだり、トイレを利用したりできると考えるのは当然だろう。
しかし大災害が起これば、インフラをはじめ多くの都市機能が一斉に麻痺・寸断する可能性があり、マップに記載の場所に行けばいつでも利用できるというものではない。また、通い慣れた道路や場所であっても、倒壊などによって1つの建物がそこから消えただけで、まったく異なった風景に見えることがあるので注意しよう。
(3)ルートをしっかりと見極める
(2)とも関連するが、天候が悪かったり見通しが効かなかったりする場所では、見当違いの方向へ行ってしまうことがある。目的のルート自体が寸断されている場合もあるため、ルートの見極めが重要となる。
また、地図上からは読み取れない急坂や崖の段差などもあるため、実際に行ってみたらわずかな距離を歩くのにも難儀したり、大きく迂回したりしなければならないこともある。
また、たとえ地理を熟知していても渋谷の中心部のような場所は迂回するほうが賢明だろう。こうした場所は災害時には想定をはるかに超えた大混雑を引き起こし、何時間も身動きがとれなくなって危険である。
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