再発防止への本質を欠いたまま忘却か
第28回:安倍元首相暗殺事件から想定するリスク思考(8)

多田 芳昭
一部上場企業でセキュリティー事業に従事、システム開発子会社代表、データ運用工場長職、セキュリティー管理本部長職、関連製造系調達部門長職を歴任し、2020年にLogINラボを設立しコンサル事業活動中。領域はDX、セキュリティー管理、個人情報管理、危機管理、バックオフィス運用管理、資材・設備調達改革、人材育成など広範囲。バイアスを排除した情報分析、戦略策定支援、人材開発支援が強み。
2022/11/29
再考・日本の危機管理-いま何が課題か
多田 芳昭
一部上場企業でセキュリティー事業に従事、システム開発子会社代表、データ運用工場長職、セキュリティー管理本部長職、関連製造系調達部門長職を歴任し、2020年にLogINラボを設立しコンサル事業活動中。領域はDX、セキュリティー管理、個人情報管理、危機管理、バックオフィス運用管理、資材・設備調達改革、人材育成など広範囲。バイアスを排除した情報分析、戦略策定支援、人材開発支援が強み。
「安倍元首相暗殺事件に関するリスク思考」をテーマに論考を書き始めた当時、さまざまな問題提起で世間は騒がしかったが、今は比較的静かになり、電波系メディアの取り扱う時間はほぼゼロに近いのではないだろうか。
唯一、旧統一教会問題はいまだ国会でも継続審議される状況ではあるが、それでも一時の騒動とは比較にならない状態に感じる。質問権の行使を決定し、解散請求に向かう可能性が出てきたこと、被害者救済の法案審議が進められたことで、一定の落ち着きを取り戻したのだろうか。
そうであれば、あまりに遠回りが過ぎると感じると同時に、今後の展開で果たして法治国家としての公平性が保てるのだろうかと懸念する。組織としての違法性、反社会性が問題であれば、その点をストレートに追及すればよい。感情論で盛り上がるのではなく、冷静に法的な問題性を追及するべきなのだ。
あくまで現時点では宗教法人として認可された正式な組織として扱いつつ、具体的な違法行為の有無を検証し、問題が確認されれば司法に問えばよい。それが法治国家のありようだろう。その上で、現行法制度では救えない被害実態があるならば、それを救済できる法案を審議すればよいはずだ。
この本質的な問題追及に紛れた「アベヘイト」や「死体蹴り」とも揶揄される陰謀論めいた批判、政治的意図を持った攻撃は、ことを複雑にしただけである。流石に内心の自由まで踏み込む発言への批判や主張のダブルスタンダード性によるブーメラン現象が酷く、攻撃が鈍っているのかもしれない。
少し調べれば自明だが、安倍元首相は旧統一教会にとって天敵と言ってもよい存在であった。勝共連合としては世界中の政治家は少なからず関与しているだろうが、今はそのような時代ではない。ましてや安倍元首相は明らかに距離を置き、被害者救済の法整備を進め被害を減少させている。
そうはいっても、時代とともに法にも限界があり、抜け道を通られる新たなリスクも生じるので、見直しが必要なのだろうし、今その議論がなされている状況なのだ。
日本維新の会の足立議員は「旧統一教会だけを問題視せず、関西生コンなどの反社会性も同様に追及するべき」との主旨の国会答弁を行っている。その通りだろう。政治目的での糾弾ではなく、広く国民目線で同様の反社会性や違法性を許さない、そういう議論にならないと建設的な前進は望めないのは当然のことだろう。
政治と宗教の距離感を問題視するなら、旧統一教会よりも創価学会や立正佼成会の方がより政治との距離は近いだろうし、他にも政治性を帯びている宗教組織は少なくない。被害者救済を問うのなら、旧統一教会だけでなく他の宗教でも献金などで所帯が崩壊した事例は多数耳にする。組織の違法行為を問題視するなら他の組織、宗教団体に限らない反社会的活動をする組織も同時に対象として議論するべきだろう。
騒いだものだけが得をする社会では、公平性が保てない。それこそノイジーマイノリティーが社会の空気を支配してしまう。騒ぎはトリガーとして受け入れつつ、公平かつ客観的に検証し対応するべきなのだ。
そういう意味で、組織としての違法性追求と被害者救済に大きな流れが生まれつつあることは前向きに考えるべきだろう。被害者救済の法制度は建設的で包括的な内容となることを期待すると同時に、メディア出演者などによる行き過ぎた感情的誹謗中傷と教団が提訴する訴訟も含めて、解散請求に匹敵する組織なのかの行政判断と請求が行われれば、それに対する司法判断を待ちたい。
そして、暗殺事件と本質的に何ら関係ないと整理すべきである。
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