2019/03/04
安心、それが最大の敵だ
パナマ運河と同じ構造
弥惣兵衛が考案した見沼通船(水運)は、見沼代用水路が完成した享保13年(1728)から3年後の同16年に運航された。この画期的な舟運事業は、江戸と見沼代用水路の村々を直接結びつけることにあった。だが用排水分離方式によって完成した東西2つの代用水路と中央排水路の芝川をどう結び付けて通運可能にするかが重要な決め手であった。そのために考案されたのが通船堀の開削である。代用水路を利用すると、かつての溜井流末であった八丁堤までは通船可能である。だが八丁堤地点で、代用水と芝川との高低差が1丈(約3m)もあり、どうしてもこの地点に通船堀を掘削して結ぶ以外に方法がなかった。弥惣兵衛は水位差を閘門(こうもん)によって調節することにした。
閘門式運河というのは、船を高低差のある水面に昇降させる水門装置で、船を入れる閘室があり、閘室の前後に開閉できる扉(水門)をつける。一方の扉を開いて水と共に船を閘室に入れ、その扉を閉めて船を他方の水位と同じにして運航する。中国では13世紀に築造されているが、日本では極めて珍しい試みであった。日本初の閘門式運河との評価もある。構造はパナマ運河と同じであり、同運河に先立つこと約170年前の建造である。
見沼通船堀は、東西両縁水路と芝川を結ぶもので、八丁堤と同じ約900mである。途中に2カ所に堰枠を造り、その開閉による水位の調節によって川舟(舟底の平らな平田舟)が荷物を積載したままで上下できるようにした。見沼通船堀が完成した享保16年10月5日、弥惣兵衛は勘定吟味役の本役に昇進する。68歳。享保改革時代を代表する農政家となった。
- keyword
- 安心、それが最大の敵だ
- 徳川吉宗
- 米
- 新田
- 治水
安心、それが最大の敵だの他の記事
おすすめ記事
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!【2024年4月23日配信アーカイブ】
【4月23日配信で取り上げた話題】今週の注目ニュースざっとタイトル振り返り/特集:南海トラフ地震臨時情報を想定した訓練手法
2024/04/23
-
-
-
2023年防災・BCP・リスクマネジメント事例集【永久保存版】
リスク対策.comは、PDF媒体「月刊BCPリーダーズ」2023年1月号~12月号に掲載した企業事例記事を抜粋し、テーマ別にまとめました。合計16社の取り組みを読むことができます。さまざまな業種・規模の企業事例は、防災・BCP、リスクマネジメントの実践イメージをつかむうえで有効。自社の学びや振り返り、改善にお役立てください。
2024/04/22
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!【2024年4月16日配信アーカイブ】
【4月16日配信で取り上げた話題】今週の注目ニュースざっとタイトル振り返り/特集:熊本地震におけるBCP
2024/04/16
-
調達先の分散化で製造停止を回避
2018年の西日本豪雨で甚大な被害を受けた岡山県倉敷市真備町。オフィス家具を製造するホリグチは真備町内でも高台に立地するため、工場と事務所は無事だった。しかし通信と物流がストップ。事業を続けるため工夫を重ねた。その後、被災経験から保険を見直し、調達先も分散化。おかげで2023年5月には調達先で事故が起き仕入れがストップするも、代替先からの仕入れで解決した。
2024/04/16
-
工場が吹き飛ぶ爆発被害からの再起動
2018年の西日本豪雨で隣接するアルミ工場が爆発し、施設の一部が吹き飛ぶなど壊滅的な被害を受けた川上鉄工所。新たな設備の調達に苦労するも、8カ月後に工場の再稼働を果たす。その後、BCPの策定に取り組んだ。事業継続で最大の障害は金属の加温設備。浸水したら工場はストップする。同社は対策に動き出している。
2024/04/15
-
動きやすい対策本部のディテールを随所に
1971年にから、、50年以上にわたり首都圏の流通を支えてきた東京流通センター。物流の要としての機能だけではなく、オフィスビルやイベントホールも備える。2017年、2023年には免震装置を導入した最新の物流ビルを竣工。同社は防災対策だけではなく、BCMにも力を入れている。
2024/04/12
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方