新型インフルエンザウイルス出現のメカニズム

21世紀に入る前から、新型インフルエンザの原因となる新しいインフルエンザウイルスの出現は、時間の問題と考えられてきました。最も新しい香港風邪型インフルエンザウイルス(H3N2)が出現してからすでに、おおむね40年を経過していたからです。

分子遺伝学的な研究から、20世紀に出現した新型インフルエンザウイルスは、それまで世界中の人に感染し続けてきたインフルエンザウイルスと、別のHA、NA亜型の鳥インフルエンザウイルスの遺伝子が入り混じった、人に対して強い感染力と病原性を持つ、新たな性状を獲得した、遺伝子再集合体であったことが分かっています(図3)。

すなわち、新型インフルエンザウイルスの出現に、鳥インフルエンザウイルスが深く関与していることが分かってきたのです。近年、鳥インフルエンザウイルスの存在が注目されています。実際に、次の新型ウイルスの元ウイルスになる可能性が高いとみなされている、不気味な鳥インフルエンザウイルスが20世紀末ごろから出現しています。例えば、鳥類に激烈な病原性を示し、時には人に対して致命的な感染を引き起こす、H5N1あるいはH7N9亜型の鳥インフルエンザウイルスの出現が注目されています。これらのウイルスが次々に登場していることは、人類にとって大きな脅威になっています。

もし、これらの広く分布している鳥インフルエンザウイルスが、香港風邪型インフルエンザウイルスなどとの遺伝子再集合体を形成し、その結果、人に対して激烈な病原性と爆発的な伝播(でんぱ)力を示す、次の新型インフルエンザウイルスが生まれる可能性は否定できません。幸い、目下のところ、そのような兆候はアジアのどこからも出ていませんが。

さまざまな亜型の鳥インフルエンザウイルスは、渡り鳥を介して秋から冬にかけて、シベリアあるいは中国東北部から日本国内にも侵入してきています。あまり知られていないことですが、中国、東南アジア、南アジアなどでは、日本と異なり、野鳥のみならず飼育されている鶏、アヒル、ガチョウなど各種鳥類にも密度高く分布しています。

20世紀に出現した新型インフルエンザウイルスも、全て中国あるいは東南アジアで最初に出現しています。そして、その地域から瞬く間に新型インフルエンザウイルスは世界中に拡散してパンデミック(世界的な大流行)を発生させたと考えられています。従って、アジアに広く分布する鳥インフルエンザウイルスを注目する必要があり、次に出現する新型インフルエンザウイルスも、従来同様、中国あるいは東南アジアで最初に登場する可能性が高いと予想されます。